スペイン映画『恋するリストランテ』(2010年、デヴィッド・ピニロス監督、原題『Bon Appetit』)はスイス・チューリッヒの創作レストランで働く若者たちが、恋愛や友情を通して関わりあっていく様子を描いた作品だ。
主人公はスペイン人シェフのダニエル。
彼がチューリッヒで雇われたのは、スイスの人気レストラン「W」だ。
そこで出会ったのはドイツ人ソムリエのハンナ、イタリア人シェフのヒューゴ。
ダニエルは人のよい青年。
彼は同僚のハンナに惹かれるが、彼女はレストランのオーナーと不倫関係にある。
この作品はハンナに惹かれるダニエルという「恋する男の物語」のみならず、彼をとりまくさまざまな人間関係も描かれている。
レストランの厨房が登場する場面も見どころ。
常々、レストランの中枢にはホールのお客には見ることのできない、数々のドラマがあると思っているのだけど、この作品はその様子が楽しめる。
オーナーシェフがあれこれ命じる。料理人たちの切る、炒める、鍋をかきまわす、盛り付けるというプロフェッショナルな仕事が行われる。
厨房で料理が作られていくさまは、なんとも有機的。
臨場感のある現場が描かれ、食をテーマにした映画好きな人には楽しめるはず。
一見頼りなさそうに見える主人公ダニエルは、その実、腕のある料理人。
厨房でもすぐに実力を認められる。
(彼がオーナーシェフに認められない役どころだったら、ストーリーはまた違っていたと思われる)
彼の腕が発揮されるのは、恋の相手ハンナの自宅のありもので作った創作料理。
パステルカラーの飴を電子レンジにかけ、パウダー状にしてトッピングに使うなんて、洒落っ気たっぷりです。
シェフってアーティスト!と思わずにいられない。
そして彼はハンナの前に料理を置いて言うのだ。
「Bon Appetit!」
さて、このチューリッヒのレストランの厨房で働く人たちはモザイクをちりばめたように多国籍で、彼らのコミュニケーションは英語。
現代だからなのか、同じ大陸のヨーロッパだからなのかかわからないけれど、いろいろな国の人たちが一堂に会するボーダーレスな職場の1つがレストランかもしれない。
また、ダニエル、ハンナ、そして同僚のヒューゴの3人がスイスからスペインまで、ドライブ旅行に出かける場面もいい。
「もうフランスね」というセリフも登場し、「日記 ヨーロッパ浮わ気ドライブ: 広告マンがクルマで走った1957年の欧州」が書かれた1957年とは状況がまったく異なる。
それはヨーロッパで人やモノの行き来をもっと自由にしましょうというお約束の「シェンゲン協定」が結ばれているからだ。
パスポートコントロールなし、セキュリティチェックなし。
ちなみにシェンゲンという名前は1985年にルクセンブルクのシェンゲンで署名されたことから。
この協定は当初、フランス、ドイツ、ベネルクス3カ国の5カ国での取り決めだったけれど、現在ではヨーロッパの26カ国が加盟。
陸路だけでなく、空路も当てはまる。
今やヨーロッパの西、ポルトガルから東欧や旧ソ連の国々にまでスイスイ行ける時代なんですね。
という背景から、映画『恋するリストランテ』でも、料理人たちはスイスからダニエルの出身地スペインまで、国内旅行の感覚で車を走らせるわけでして。
「恋する~」というタイトルからラブコメ的な要素が強いかと思いきや、邦題のイメージを裏切るシックなムードがただよっていて、ロードムービーとしての面も楽しめるこの映画。
ふんだんに登場する料理シーンもですが、スイス・チューリッヒの美しい風景(とくに夜と夜明けの)も心にグッときます。
ところで、こちらはチューリッヒの観光誘致の動画。
美しい景観もそうですが、意外な人物にフィーチャーしていて、ちょっとビックリ。
やるな、チューリッヒ! と思わずにいられない。
夜や夜明けぽいシーンは映画『恋するリストランテ』に重なるものがあります。
そして音楽もよいです。誰の楽曲だろう?
『日記 ヨーロッパ浮わ気ドライブ: 広告マンがクルマで走った1957年の欧州』のfacebookはこちらから。