東京のオフィス街、丸の内に降り立つと見渡す限り、背の高さを競っているような高層ビル群が。
その林立にちょっぴり気圧されそうにもなるのですが、レンガ造りの低層の建築物が目に入ると、昔馴染みの人やモノに出あえた安堵を覚えます。
その建造物こそ、三菱一号館美術館。
実はこの建造物自体は新しく、明治時代に建てられた(旧)三菱一号館をレプリカ保存したもので、2010年に三菱の企業美術館として開業。
明治時代に設計を手がけたのは、当時日本に招聘された英国人建築家のジョサイア・コンドル。
彼の師はゴシック建築の権威といわれるウィリアム・バージェスでしたが、この建物には19世紀後半の英国で流行した「クイーン・アン様式」が用いられています。
この日は、ちょうど『プラド美術館展』を開催中。
(2016年1月31日で展覧会は終了)
この展覧会はプラド美術館の本拠地であるマドリッドを皮切りにバルセロナ、そして再編集されて東京に。
奇妙で風刺的で謎めいた作風をもつ、ブリューゲルと並ぶフランドルを代表する画家ヒエロニムス・ボス(ボッシュ)の作品(『愚者の石の除去』)が初来日を果たしたことが話題になりました。
プラド美術館は数少ないボスの真筆といわれる作品を所蔵していることで知られています。
会場にはブリューゲル、ゴヤ、グレコ、ベラスケスなどの作品も。
キャビネット・ペインティングとよばれる小品を中心に楽しめました。
レプリカとはいえ、このレンガ造りの建造物は明治期に建てられた時の設計図や文献、写真、保存部材などを調査し、製造方法や技術を忠実に再現しています。
明治時代に使われていた手すりの石材なども再利用。
展示室の撮影はできませんが、板張りの床や石でできたマントルピースなどに、明治時代の内装が想起されます。
昔は事務所として使われていた建造物を復元しただけあり、小部屋が続き、作品を鑑賞するために部屋から部屋へと進む導線がアットホームな印象。
「ワンフロアーぶち抜いて」みたいな空間とは対極にある感じ。
鉄骨製の組み立て式階段。
窓の少ない建物ゆえ、窓ぎわにある階段の蹴上から陽光をとり入れられるような意匠がほどこされています。
この美術館を核とする「丸の内ブリックスクエア」は、数十種類のバラの庭園、彫刻、オープンカフェで構成される広場があり、草木や緑の芝生が心和ませます。
また、美術館内には明治時代の銀行の営業室をそのまま使用したカフェ、そしてミュージアムショップなども。
さて、ジョサイア・コンドルの一番弟子として知られるのが建築家、辰野金吾。
三菱一号館美術館から数分の場所に、彼の代表作があります。
それが東京駅(旧名は中央停車場)。
師のジョサイア・コンドルが三菱一号館に用いたのと同じクイーン・アン様式を取り入れた建造物といわれています。
くしくも、同じ様式をもつふたつの建築物。どちらも赤レンガが外壁となり、クラシカルで優雅さを帯びています。
そして、どちらにも共通するのが「品」とか「格」といった目に見えないもの。だけれど、大気中に染み出している建築のバイブレーションがたしかに存在しているのを感じるはず。
時間だけがモノゴトをジャッジできるのか?
そう思わずにいられない、丸の内に存在するレンガ建築の両雄。
ある時代をともに生きた師と弟子の作品がこうして同じ地区で見られるという巡り合わせに、縁を感じずにはいられません。
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