映画『ファッションが教えてくれること』のグレイス・コディントンの言葉

映画『ファッションが教えてくれること 』(2009年)はアメリカのVOGUE誌で働く人や誌面を作るクリエイター、著名デザイナーが登場するドキュメンタリー作品。
映画『プラダを着た悪魔』の番外編的な作品として気軽に見たわけですが、これがなかなか面白かった!
原題は『The Sepetember Issue』。このタイトルは内容をズバリと表したシンプルなもの。VOGUEの新年号といえる9月号(2007年)を制作する様子を赤裸々にドキュメントしています。

主人公はアメリカ版VOGUEの顔ともいえるのが、名編集長アナ・ウインター。トレードマークはサングラス、ファッション界のアイコンとして知られ、映画『プラダを着た悪魔』のメリル・ストリープ演じる鬼編集長のモデルになったといわれるあの方ですね。

そして、アナと26年間もタッグを組んでVOGUE誌を作り上げてきた、クリエイティブ・ディレクターのグレイス・コディントンも、もう1人の主人公。
この人は一見、ヴィヴィアン・ウエストウッドを思わせる風貌。スタジオでの撮影中「モデルに着付けられる編集者は私ぐらいね」と言いながらモデルに洋服を着せている彼女は、元VOGUEのモデルを務めていたことも。モデル時代の彼女の際だった美しさも必見。

映画の中ではこの2人の対立、そして相手への敬意を語る場面も。
事実を伝えるドキュメンタリーですが、ハラハラ・ドキドキ・ホッコリと、感情移入させられることが多い内容でした。

さて、印象深かったシーンを。
9月号の撮影のため、グレイス・コディントンが訪れたのはパリ。
彼女はこう語ります。

パリは本当に美しい街よ。
モデルやエディターに憧れたことはなかったわ。
ファッション写真が好きだっただけ。

エディターになった最初の頃、有名な写真家ノーマン・パーキンソンと仕事したの。
彼が言ってたわ。

“いつも目を開けていろ
移動の時に眠るな
目に映るあらゆるものがインスピレーションを与えてくれる”

凱旋門、セーヌ川を走るボート、モンマルトルの階段、ノートルダム寺院…パリの観光地が映しだされ、彼女の言葉とともにこのシーンに、ときめく人は多いのでは。

そしてクチュール撮影のためのロケハンで訪れたヴェルサイユ宮殿の庭園を目の当たりにし、彼女はその整った美に圧倒されます。

「不思議ね。何百年も時を経ているなんて。美しい…
私は過去の遺物 ロマンティックな人間なの
過去ではなく未来に生きないとね」

カメラは、VOGUEの名クリエイティブ・ディレクターの歴史に敬意を払う表情をしっかり映しとっています。

アナ・ウインターがファッションに鼻のきく、先見の明を持った、自分の感覚に忠実(ニックネームは「氷の女」といわれるぐらいの、合理主義者)な編集長だとしたら、グレイス・コディントンはアイデアを誌面におとしこむのが天才的にうまい、VOGUEのクリエイティブを牽引してきたクリエイター。

アイデンティティ、つちかわれたクリエイティブ精神。
彼女の心身に埋め込まれたものが美しく偉大なるロケ地に溶け合い、彼女は自分の人生を回想せざるを得なかったのかもしれません。
個人的にはこのヴェルサイユ宮殿でのシーンに胸を締めつけられました。

さて、このグレイス・コディントンは現在73歳。
昨年『グレース 〜ファッションが教えてくれたこと〜』 という本を出版しています。

イヴ・サンローランやケンゾー、マーク・ジェイコブスなど、ハイブランドについても言及していたり。
若いころはロマン・ポランスキーやミック・ジャガーに言い寄られたり、ビートルズやカトリーヌ・ドヌーブとつるんでいたことも書かれているなど、なかなか興味をそそる内容。←たんなるヤジウマ!?(笑)

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