このクルマ。ぱっと見、シトロエンだとわかる人はほとんどいないんじゃないかな。
変形シトロエンを制作したのはメキシコ生まれのアーティスト、ガブリエル・オロスコ。
1990年代前半からベネチア・ビエンナーレやドクメンタ(ドイツ・カッセルで開催)などのアートシーンで活躍してきた現代美術を代表する作家です。
このちょっと変わったシトロエンDSと遭遇したのは、東京都現代美術館で開催されていた『ガブリエル・オロスコ展―内なる複数のサイクル』展にて。
ちなみにガブリエル・オロスコにとって、日本で初めてのソロの展覧会。
アートに転換されたシトロエンDSは1993年に発表した作品『La DS』の別バージョン。
当時、この作品を発表した時のオロスコはまだ無名でしたが、彼によって解体され、変形した水色のシトロエンはアートシーンに衝撃をもたらしたそう。
ここで、この作品の原型であるシトロエンDSについてふれておこう。
シトロエンDSは1955年のパリモーターショーでデビュー。
デザインを担当したのはイタリア人デザイナー、フラミニオ・ベルトーニで、量産車として企画。
1999年の「カー・オブ・ザ・センチュリー」ではフォードの『モデルT』、『ミニ』に次いで3位に選ばれてもいる。
オロスコは、ある特定のモノに介入し、元々それらがもっているカタチを変えることで、作品にするアーティスト。
この作品は車体を三分割して、真ん中を取り除いた左右を張り合わせて制作。
シートはジャスト2人分。
シトロエンのシンボルといえるクサビ形のエンブレムが見当たらない、このクルマは見る角度によっていろんな表情を見せてくれる。
子ども時代にF1レーサーに憧れたオロスコの思い出とも結びついているのでしょう。
会場では写真作品をはじめ、カンヴァス作品、訪れた人が実際にプレイできる卓球台(センターに「池」のある不思議なフォルム)なども。作家のムーヴメントが余すところなく展示されていた。
そして、この作家に親しみを感じた作品がこらち。飛行機のチケットや自身が日本で宿泊した旅館の領収書などに円を秩序よく描いている。
展覧会の解説書によると「すでにある物への介入や、円やダイヤグラムへの関心、移動といったオロスコ作品の特徴がよく表れています」と。
オロスコの特定のモノに介入して作られる作品は、見ている人に何を提供してくれるだろう。
そうだ! 介入という言葉が難しければ「おせっかい」という言葉に置き換えてみてはどうだろう。
おせっかい・・・別に誰にも頼まれてもいないのに、ここをこうすれば面白くなるとか、ああすれば楽しいとか、いらぬ世話を焼いてしまうようなこと。
「おせっかい」は今まで考えたことも、見たこともない発見だったり、何かのヒントになったり、あるいは今日の夕食のおかずは○○にする!という、ちょっと下世話だけど必要なものごとの決め手になるようなのものかもしれない。
アーティストが差し出した「おせっかい」で何かしらのアイデアやひらめきが生まれる。
それって、有機の循環のようで素敵ではありませんか!?
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