ノーベル賞受賞と日本からはみ出ること

先日、今年のノーベル物理学賞の受賞者3名が発表され、日本中が湧き上がりました。
しかも、対象となった研究は、私たちの生活に馴染みのあるLED(発光ダイオード)。

クリスマスシーズンの電飾といえば白色か柿色で、青色の電飾が登場した時は世の中に新しい色がともされたように、新鮮でロマンティックな気分に浸ったものです。
まさか、この技術が日本生まれだったとは。

開発に成功され、フルカラーの大型画面の実現など、さまざまな応用への道を開いた名城大学教授の赤崎勇先生と名古屋大学大学院教授の天野浩先生、そしてカリフォルニア大学教授の中村修二先生に心から拍手を送ります。
1つの開発・研究について、日本人がトリプル受賞とはすばらしい!

個人的には中村修二先生の姿勢に共感しています。

光の三原色のうち、赤と緑のLEDは東北大の西澤潤一先生が実現。しかし、青色だけは誰も作れていなかったという頃。
日亜科学工業の会社員だった中村先生はその研究最中、社内でいろいろ冷遇されていたそう。しかし、社長に直訴した末、3億円の開発費を獲得。このことついて「私が大企業の一研究者だったら、社長に直訴なんてできなかった」と。

市販の結晶成長装置を購入し、午前中に改造し午後は実験、そして翌朝また改造を重ねる。そんな生活を2年続けたそう。
その間、外注はなく、すべて自前でこなし、成果が出たら論文にして発表。
まるで、研究職の「職人」のような方ですね。今風にいえば、SAMURAI研究者というのでしょーか。

一方、中村先生に投資した小川信雄社長も、肝っ玉が座っている! こちらもSAMURAI経営者。
結果は海のものか山のものかわからんが、こいつの熱意に賭けてみようじゃないか、負けてもわしが責任をとったる、という太っ腹な精神を感じさせます。なんと5秒で5億の投資を決められたのだとか。

ホントにできるの? 売れるの? マーケティングでは…

などと、可能性を秘めた若芽を容赦なく摘みとる人の多い世の中に、この青色LEDの開発に秘められたストーリーは背中を押してくれるようです。

大企業が優秀な人材と巨額の研究費をつぎこみながら実現できないことを、田舎の小さな企業にできるわけがないと思っていました。しかし、困難だからこそやりがいがあります。金も人もない、そんな状況でできたのは、幸運に加え日亜という会社の環境と、負けず嫌いな私の性格が影響していたかもしれません。

今回の中村先生の受賞で、会社におけるあらゆる分野の技術者・発明者の知的財産権について見直されることでしょう。
そして自分の専門分野を研究・開発するなら、なにも日本国内だけがフィールドじゃないんだ、井の中の蛙になる前に飛び出そうぜ!と魂をキックされた人もいるはず。

かつて、中村先生が語った話で、興味深かったのは、アメリカの工学部の大学教授はベンチャービジネスの社長も兼ねていること。研究資金は国からもしくは企業と共同研究を申し入れて、研究費を捻出。お金を集めるのも先生の仕事、という風潮が息づいているのがユニーク。「学校のセンセイがお金儲けするなんて…」と、どこかの相互監視好きの国のように、眉をひそめて見られることはない。

自分がブレないだめにはみ出す勇気。
中村先生のこれまでのストーリーは、小さくまとまりそうになっている人に喝!
研究者の地位向上について、日本式のシステムについて、ぶったぎっているコメントが痛快です。
技術畑以外でも溜飲が下がる思いの人は多いでしょう。

ところで、ノーベル賞受賞者発表シーズンの風物詩ともいえるのが、村上春樹の受賞。
今年も風物詩のまま終わっていきました。

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